病院長コロナ対応1年のまとめ

 昨(2020)年2月の横浜クルーズ船の乗客乗員の受け入れから始まった新型コロナウイルス感染症との闘いは、ついに1年の長きに渡ってしまいました。当院では、この初動より“総力をあげて” 正面から、この感染症と闘い、今年1月末までの1年間で重症者累計70名、確定患者292名、疑似症まで含めると400名近くの入院治療を行って参りました。
 横浜クルーズ船対応時は、突然に発生した外国人旅行者の感染隔離という大変難しくて、特殊な診療がはじまり、大使館・保健所とのやりとりや共同作業、ルールを超えた人道的対応も必要としました。陰圧管理・動線分離が行き届いた感染症病棟と感染症内科・総合内科医が大活躍し、増えるニーズに応えて感染症病棟の拡張も行いました。  市中感染が増え3月末からの第1波は、医師の人事異動時期を直撃し、新任医師の検疫チェック、面会全面禁止、出入口管理、つつじ外来(発熱者等用建物外外来)の設置、さらに手術治療の抑制、など大きな混乱となりました。当院は重症患者を主に診療することが期待されました。重症診療の中心は人工呼吸器管理による集中治療で、感染症病棟の隣の救命センター病棟までコロナ対応に供出せざるを得ず、人員を確保するために、一般病棟をいくつか閉鎖して看護師をシフトし、対応医師は総合内科と救急科でチームを編成いたしました。経営状況は大きく落ち込み、5月の入院稼働額は前年比74%になってしまいました。
 7月からの第2波は、さらに大きなものになりましたが、この間の経験で闘うための様々な医療機器や設備を整備し、医療職・事務職、病院を挙げての頑張りで、大きな病床拡張は行わずに乗り切りました。
 しかし、11月からの第3波は収まりを見せず激増し、救命センター病棟は再び全てコロナ用とせざるを得ず、それでも足らず一般病棟の一部もコロナ対応といたしました。COVID-19入院患者数は今年1月19日に最大数35(重症最大15)を記録し、これ以上の手札のなさから恐怖を覚えましたが、幸いなことにここで頭を打って、以後、漸減しました。この時、当院の3次救急の応需率(通常100%)は90%にまで下がり、市内で救急車たらい回しも頻発し、救急搬送困難事例も前年の4倍を記録したとされています。まさに、川崎市は医療破綻の寸前までいったのです。現在は少し戻ってきた、というところなので、全く安心はできないのです。
 2月中旬の現時点で、第3波に少し収まりがついてきたとはいえ、市民の自粛生活で得られた静けさであり、原因が取り去られたわけではありません。残念ですが、1年でほっと一息というわけにはいかないのです。私たちには、多くの課題が提示されています。1月の重症者増は、高齢者施設クラスターの多発がかなり効いています。当院では、今後も経験と実績のある感染管理看護師による感染管理講習を高齢者施設に行ってまいります。教育効果が高く、感染予防効果が高いと見込まれるからです。そして、日本でも、いよいよワクチン接種が始まります。従来経験したことのない巨大プロジェクトです。これにも積極的に関わってまいります。
 これだけの数の患者さんに対して適切な治療を提供し、多くの患者さんを軽快や治癒に導き、大きな福音をもたらしてきた自負がありますが、一方で我々の力及ばず、不幸の転機を取られた方もいらっしゃいます。今回の病気でのお別れでは、ご家族と共に看取ることができず、お顔を見ることもできず、誠に残念で悲しいお見送りの仕方となってしまいました。我々はご家族に対して、申し訳なく、悔しく、そして人として大変悲しい思いをいたしました。
これまで20名の当院職員がCOVID-19に感染しており、大変情けなく、申し訳なく思っています。しかし、いずれのケースも患者さんから感染した事例ではなく、また院内で他者に拡げてもおりません。当院の院内環境は清潔に保たれており、一般患者さんは、安心して診療を受けることができます。コロナと積極的に対峙してきた病院ならでは、経験に裏打ちされた高度の感染管理が実現しています。
 手前味噌ですが、私は当院職員の技術、精神力を称賛したいと思います。医療職、公立病院、感染症指定医療機関という使命感で始まったコロナ対応ですが、1年も続く中、粘り強くきちんとした成果を出し続けてくれたことは、高い技術力と忍耐力を示すものです。まずもって、最前線で闘ってくれている医療職に敬意と感謝の気持ちを表したいと思います。最前線以外の職員も、病院一丸となって、サポートしてくれました。改めて、感謝です。そして、最前線を支えてくれたものは、市民の皆さんや企業の皆さんからの熱い支援のメッセージです。周りから支えられているという証の、食べ物、飲み物、メッセージ、贈り物、マスクやガウン、現場訪問、声がけ、心のこもった感謝状にどれだけ勇気付けられたことでしょうか。私たちは、地域の皆さんと共に、一丸となって闘ってきたのです。ありがとうございました。

 まだまだ、皆様と共の闘いが必要です。    川病は逃げない。

2021.2.19.
市立川崎病院 病院長 金井歳雄
(現川崎市病院事業管理者)



これまでの川崎病院のCOVID-19対応について

 2020年10月20日 COVID-19対応について5(川崎市立川崎病院 ご利用の皆様へ)
 2020年10月13日 COVID-19対応について4(川崎市立川崎病院 ご利用の皆様へ)
 2020年8月19日  COVID-19対応について3(清潔・安全な院内環境です)
 2020年6月16日  COVID-19対応について2(清潔・安全な院内環境維持の取組について)
 2020年4月24日  COVID-19対応について1(つつじ外来と手術縮小について)