医療コラム Vol.1
五十肩だけではない、長引く肩の痛み
–肩腱板断裂を疑いましょう−
整形外科/中道憲明
腱板とは、肩を動かす4つの筋肉(肩甲下筋、棘上筋、棘下筋、小円筋)が上腕骨頭に付着する腱部分の総称です。これらの4つの腱の内、1つ以上の腱が損傷した時に腱板断裂といいます。
腱板断裂は、転倒などの外傷が原因で起こる事もありますが、高齢者では腱の老化で徐々に切れる事もあります。転倒などの怪我がきっかけで断裂した場合には、眠れないほどの強い痛み、腕が上がらなくなる等の重い症状を伴うこともあります。この場合、整形外科を受診し、レントゲン検査を受ける方も多いと思います。しかし、レントゲンに異常が無く、担当医から五十肩と診断されるケースが少なくありません。
腱板断裂の診断にはMRI検査が非常に役立ちます。腱板断裂はレントゲンには写らないからです。怪我や重労働をきっかけで起きた肩痛は五十肩ではなく、腱板断裂の可能性がありますので、肩痛が長く続く場合には、是非ともMRI検査を受けてください。
五十肩は明らかな外傷がなく起きる肩痛で、1年ほどで自然に治る病気として知られています。肩関節を包むふくろに炎症が起きて硬くなるため、動きが制限されると考えられています。睡眠時に痛みが増す、腕が上がらなくなる、背中に手が回らなくなるといった、腱板断裂と似た症状も見られます。しかし、この肩痛を楽観的に判断し1年間様子を見ていると、腱板断裂だった場合には治療が手遅れとなるので注意が必要です。
腱板断裂を早く見つけるには、知識を持った医師の診察を受けることが重要ですが、ご自分でも比較的簡単に見分ける方法があります。それは、「背泳ぎテスト」と呼んでいるものです。写真のように仰向けに寝ていただき、肘を伸ばしたまま頭の方に腕を上げていくテストです。五十肩では、関節が硬いので、手が顔の前程度にしか上がりません(図1)。また、無理に上げようとすると、背中が反り返ります。一方、90度付近で痛みは感じるものの、頭の上付近まで手が届く時には、腱板断裂の疑いがあります(図2)。腕の動く角度で判断すると、五十肩が90度程度、腱板断裂は160度程度で、腱板断裂の方が軽症と思われがちです。実際、患者さんの多くが「肩が上るなら大丈夫」と判断され、腱板断裂が放置されているようです。
治療は、まず炎症を抑え、痛みを和らげる目的で消炎鎮痛薬を含んだ内服薬や湿布が使われます。痛みが強い時にはオピオイド鎮痛薬の併用や、ステロイド薬を注射することがあります。薬でいったん痛みが治まっても、痛みが再発したり、断裂が拡大したりする可能性があります。お布団や買い物袋などの重い物を運ぶことや過度な運動を避けることが大切です。ウエイトトレーニングは症状を悪化させる事がありますので、愛好家は慎重に行ってください。
保存的治療で症状が改善しない場合には、手術を検討します。通常は1週間程度の入院が必要で、修復部の安静のために、4週間ほど装具で腕を固定します。筋力が回復するには6ヶ月ほど必要です。
図1 五十肩患者の背泳ぎ。手は顔の前までしか届かない。
図2 腱板断裂患者の背泳ぎテスト。手は頭の上まで届いている。