急性期脳血管障害患者の治療の迅速化・合理化を図るために、平成29年4月1日に高度脳神経治療センターを開設しました。脳血管障害(脳卒中)には、脳梗塞、脳出血、くも膜下出血が含まれますが、高齢化社会に伴い、これらの疾患に対する急性期治療は、ますますその重要性が高まってきています。当センターは、脳神経外科、神経内科、救急科などの複数の臨床科の密な連携を図り、迅速かつ正確な急性期脳卒中治療を提供します。
センターの特色
- 脳神経外科、神経内科、救急科など中心とする各科専門医が密に連携して、直接、脳卒中急性期治療にあたります。特に、脳神経外科は川崎病院スタッフを集約して、5名の強力体制を組みました。
- 24時間対応で、脳卒中救急医療を提供します。
- 救急患者受付窓口は当院救急救命センターで、今までと変わりありません。
- 早期リハビリテーションを開始し、急性期治療を終了した患者さんは、脳卒中連携パスによって、近隣のリハビリ施設へ早期転院を促します。
- 質の高い治療ゴ—ルを目指します。
治療対象となる疾患について
急性期脳血管障害、すなわち急性期脳卒中(脳梗塞、脳出血、くも膜下出血)患者さんが治療の対象となります。
脳梗塞
脳梗塞は、脳の動脈が血栓(血の塊)や動脈硬化などで閉塞することにより、脳に十分な酸素が届かなくなり、脳が壊死に落ちる疾患で、脳卒中の約75%を占めます。
血栓の場合、発症からの治療開始時間と患者さんの既往症などでかなり厳選はされますが、超急性期に血栓を溶解したり、血栓を回収する手術を行うことで、劇的に症状が改善される場合があります。
当センターでは、発症から4.5時間以内に血栓を溶解するt-PA治療や発症から8時間以内にカテーテルによって血栓を回収する血栓回収術も行っています。早期の治療開始が、生命予後・機能予後の大きな改善につながり、まさに時間との勝負といえます。
脳出血
脳出血は、主に脳実質のなかに入り込んでいる細い穿通枝と呼ばれる細い動脈が破綻して脳の中に出血を起こす病気で、脳卒中の約20%を占めます。
原因は高血圧や血管の老化・変性によるものが多く、出血の場所や量(30ml以上)によって手術の適応を判断して手術を行います。
手術法には、開頭による血腫除去術だけでなく、内視鏡下摘出術、定位的血腫除去術など低侵襲手術も選択して行います。稀に、脳出血の原因として、脳動静脈奇形などの稀な疾患もありますが、この疾患は、血管内手術による塞栓術、開頭摘出術、放射線治療などを選択して行う治療難易度の高い疾患といえます。
くも膜下出血
くも膜下出血は脳卒中の約5%を占め、その原因の90%以上が、脳の表面を走る太い動脈にできる脳動脈瘤が破裂することによって発症します。治療は、その動脈瘤に対して、再破裂をしないように根治術を行うことから始まります。根治術には、開頭によって動脈瘤の頸部を直視下にクリップによって血流破断する開頭脳動脈瘤頸部クリッピング術と、開頭術を行わず、血管内手術によって動脈瘤の内腔を特殊なコイルで閉塞するコイル塞栓術とがあります。動脈瘤の形状や位置によって、この2つの治療法を選択して行います。クリッピング手術中には、必ずICG蛍光撮影や神経内視鏡などを併用して確認を行い、手術の安全性の向上に努めています。
脳動脈瘤の根治療が終了しても、発症後約4〜5日め頃から脳血管攣縮の時期に突入いたします。脳血管攣縮は脳表(すなわちくも膜下腔)を走行する脳の主幹動脈が、出血の影響を受けて攣縮をおこして細くなり、脳への血流が低下するj病態です。重症の時は、脳梗塞が多発して、それだけで重度の障害が残ったり、生命を失うこともあります。その治療は、今なお確実な特効薬がなく、くも膜下出血の予後を不良にする大きな原因になっています。
くも膜下出血の慢性期(発症からおよそ3〜4週間)になると、出血の多かった症例ほど、脳脊髄液の循環、吸収が障害されて、脳室内や硬膜下腔に髄液が過剰に貯留する、いわゆる水頭症を起こしてきます。これは、致命的になる疾患ではありませんが、髄液シャント術などの適切な治療を行わないと、認知機能の低下、歩行障害、失禁などの障害を残すことになります。
くも膜下出血は、動脈瘤の根治術、脳血管攣縮の治療、水頭症の治療といった3つ問題を乗り越えて、初めて完治したといえるわけですが、それには順調にいっても約1か月はかかってしまう大変な病気です。これほど、医学が進んだ時代でも、約半数の患者さんが、寝たきりや命をおとしてしまう恐ろしい病気でもあります。
受診のご案内
脳卒中で発症され、当院救急救命センターへ救急車搬送された患者さんが対象となります。
もしくは、近隣医療機関から紹介された急性期脳卒中患者、当院一般外来や救急外来受診時に、急性期脳卒中と診断された患者さんも対象となります。
脳卒中を疑ったら、必ず、早く救急車を!
脳卒中は、名前のごとく、卒:突然に、中:あたる病気です。初期の診断、治療を誤ると、助かるはずの命も失ってしまうことになる恐ろしい疾患です。現在は日本人の死因の第3位(10.7%)を占めます。
次のような症状を自覚したら、すぐに、救急車を呼びましょう!
(自家用車や交通機関を利用されるのは、途中で急変されたとき、手遅れになりますので、くれぐれも避けていただくようお願いいたします。)
- 突然、体の半身に力が入らなくなった時
突然、言葉がうまく話せなくなった時、言葉が理解できなくなった時
突然、おかしなことを言いだした、おかしな行動をとり始めた時
→ 頭痛をともなえば脳出血、頭痛があまりなければ脳梗塞が疑われます。 - 突然、今まで経験したことのない頭痛と嘔気、嘔吐を感じたが、麻痺が認められない時
→くも膜下出血、もしくは小脳出血が疑われます。
外来診療担当表
高度脳神経治療センターの構成臨床科
脳神経外科 | 医師5名(センター直属3名) | 総合内科 | 医師2名 |
神経内科 | 医師3名 | 麻酔科 | 医師2名 |
救急科 | 医師3名 | 放射線科 | 医師1名 |
リハビリ科 | 医師3名 | 小児科 | 医師1名 |