基本理念
私たちは、地域の基幹病院として、他の医療機関と連携し、「病気」でなく「病人」を診る心を大切に、安全安心で質の高い医療を、患者の皆さまとともに考え、実践し、健康と福祉の向上を通じて地域社会の発展に貢献することを目指します。
2016年1月
病院運営方針
基本理念を踏まえ、自治体病院の使命と役割を果たし、市民に信頼される安全安心で質の高い医療を継続的かつ効率的に提供していくために、次の方針を定めます。
- 患者さんの声を尊重し、高い倫理観をもって医療にあたります。
- 地域の基幹病院として、地域の医療ニーズに迅速かつ柔軟に対応できる、良質な急性期医療および専門性の高い医療を提供します。
- 救急医療、がん医療、周産期医療、災害時医療の充実を図ります。
- 地域の医療機関との連携を大切にします。
- 教育、研修を推進し、職員の知識、技術の向上と人材育成に努めます。
- 安全管理の向上に努めます。
- 健全な経営基盤の確立に努めます。
- 職場の経営意識の高揚を図るとともに、働きがいのある職場づくりに努めます。
2016年1月
患者さんの権利
当院は、患者さんの医療にかかわる、次の権利を尊重します。
- 生命の尊厳と、人格を尊重した医療を受ける権利があります。
- 安全安心で質の高い医療を平等に受ける権利があります。
- ご自身の病気や治療について知る権利を持ち、わかりやすく説明を受け、希望や意見を述べる権利があります。なお病名や予後について知りたくない場合は、そのお気持ちを尊重します。
- ご自身が受ける医療を自らの意思で選択あるいは拒否する権利があります。
- ご希望により、診療のいかなる段階においても、他の医師および他の医療機関の医師の意見(セカンド・オピニオン)を求める権利があります。
- 診療上の個人情報は厳重に保護され、その秘密は守られます。
2016年1月
「患者さんの権利(英語版)」(PDF形式, 60KB)患者さんの責務
当院が安全安心で質の高い医療を提供するためには、患者さんご自身にも医療チームの一員として主体的に参加していただく必要があります。そこで、次のことについてご協力ください。
- ご自身の健康に関する情報を、医療提供者にできるだけ詳しくお話しください。
- 診療に関し希望されること、またはされないことを、医療提供者にお話しください。
- 診療に関する説明がよく理解できない場合は、医療提供者に遠慮なくお聞きください。
- ご自身および他の患者さんが適切な診療を受けるための妨げにならないよう、病院内の規則や社会的なルール、病院職員の指示をお守りください。お守りいただけない場合は、退去していただくことがあります。
- 診療に伴う医療費を適正にお支払いください。
2016年1月
患者さんへのお願い
当院は質の高い医療を提供するとともに、明日の医療を担う人材を育成しています。そこで、次のことについてご理解とご協力をお願いいたします。
- 医療の質の向上を目的として調査・臨床研究を行い、得られた結果は個人情報が特定されないかたちで公表しています。
- 教育研修病院として、研修医、看護師をはじめとする医療従事者の研修、あるいは学生の臨床実習を行っています
2016年1月
川崎病院の臨床における倫理指針
1 生命の尊厳と人権を尊重することを基本とし、患者さんと医療者が協力して、個々の患者さんにとってもっとも望ましく適切な医療を提供するように努める。
2 患者さんの信条や価値観に十分配慮し、生命倫理に関する関係法規や各種ガイドライン及び院内規程等に沿った医療を提供する。
3 倫理的な課題については、臨床現場の多職種で検討し解決することを基本とするが、解決できない問題や重大な課題等については院内の多職種で構成される臨床倫理コンサルテーションや、院外有識者を加えた倫理委員会における審議により、総合的に十分検討する。
具体的な倫理的課題への対応
(1) 意思決定が困難な患者への対応
当院の「適切な意思決定の支援に関する院内指針」に準じて対応する。意識不明や自己判断能力がない患者さんには、家族等の適切な意思決定代理者の同意を得て、医療に必要な判断を決定する。また緊急時に意思決定代理者の判断も得られない場合や家族等の意思決定代理者がいない場合には、患者さんにとって最善の利益となる方針を多職種で検討し医療を提供する。
(2) 検査・治療・入院の拒否や指示不履行について
検査・治療・入院等の医療行為の必要性やそこから得られる利益と、それらを実施しない場合の不利益について、患者さんに十分に説明を行う。また、患者さんが拒否する理由、障壁となっている心理・社会的背景、あるいは個人の信条等を尋ね、患者さんと協働して解決可能な妥協点がないかを模索する。その上で、患者さんがその医療行為を拒否する場合は、患者さんの自己決定を尊重する。ただし、感染症法等で第三者に危険が及ぶ可能性がある場合などは治療拒否が制限される。
(3) 輸血を拒否される患者さんについて
信条や宗教上の理由などから輸血を拒否される患者さんには、「輸血を拒否する患者への対応マニュアル」に沿って対応する。
(4) 身体的拘束について
患者さんの尊厳と身体的自由を守るため、身体的拘束の実施は原則禁止とする。ただし、患者さん本人又は他の患者さんの生命、身体、権利が危険にさらされる可能性が著しく高く、身体的拘束やその他の行動制限以外に代替する方法がなく、やむを得ない場合に限り、「川崎市立川崎病院 身体的拘束最小化の指針」に準じて適切に対応する。
(5) 終末期医療について
終末期(人生の最終段階)の医療・ケアについては、「人生の最終段階における医療・ケアの決定プロセスに関するガイドライン(2018 年:厚生労働省)」に準じて、患者さん・家族等と相談のうえ、患者さんの意思に基づいた医療を行う。また、可能な限り疼痛やその他の不快な症状を緩和し、精神的・社的援助も含めた総合的な医療を提供する。また、安楽死や自殺幇助はしない。
(6) 蘇生措置不要(DNAR)の指示について
適切な治療にもかかわらず病状の進行によって死が差し迫った状態にある患者さんや、心肺停止した場合に仮に心肺蘇生しても短期間で死を迎えると推測される患者さんに対しては、蘇生措置の有効性につ
いて、患者さん本人に対して十分な説明を行い、蘇生措置を希望しない意向を示した場合には、その意思を尊重する。患者さんの意向が確認できない状況にあっては、家族等の意思決定
代理者に対して上記と同様の説明を行い、患者さんの意思を推定した結果、「患者さん本人であれば蘇生措置を希望しないであろう」と推定される場合には、その推定意思を尊重する。
DNAR 指示は心肺停止時のみに有効である。心肺停止を「急変時」のような曖昧な語句にすり替えるべきではない。DNAR 指示のもとに心肺蘇生以外の酸素投与、気管挿管、人工呼吸器、補助循環装置、血液浄化法、昇圧薬、抗不整脈薬、抗菌薬、輸液、栄養、鎮痛・鎮静、ICU 入室など、通常の医療・看護行為の不開始,差し控え、中止を自動的に行ってはならない。
DNAR 方針が決定した後であっても、予期しない原因による突然の心停止の場合はDNAR 方針の適応とはならず原則蘇生行為を行う。
(7) 生命維持治療の不開始・中止について
人工呼吸器、補助循環装置、血液浄化法、昇圧薬、人工的水分・栄養投与、輸血等の生命維持治療の不開始・中止については「人生の最終段階における医療・ケアの決定プロセスに関するガイドライン(2018 年:厚生労働省)」に準じて、患者さん・家族等と相談のうえ、患者さんの意思に基づいた医療を行う。
また、各学会の下記ガイドライン等を参照し、これらに準じて適切に対応する。
・救急・集中治療における終末期医療に関するガイドライン(2014 年:日本集中治療医学会・日本救急医学会・日本循環器学会)
・透析の開始と継続に関する意思決定プロセスについての提言(2020年:日本透析医学会)
・高齢者ケアの意思決定プロセスに関するガイドライン〜人工的水分・栄養補給の導入を中心として(2012 年:日本老年医学会)
(8) 説明と同意・がん告知
検査・処置・投薬・処置等の侵襲を伴う医療行為を実施する際には、「川崎市立川崎病院 説明と同意及び説明書・同意書に関する指針」に準じて、患者さんに対して十分な説明を行い、患者さんの主体的な判断により医療行為の具体的内容を決める。
また、知る権利に関するインフォームド・コンセントを徹底し、原則としてがん告知を行う。しかし患者さんが「知らないでいたい」との希望を表明した場合には、患者さんの意思を尊重する。その為に、患者、家族と医療従事者の話し合いの中で患者さんの意思を把握し、対応を検討する。
(9) 生殖・周産期医療
倫理性、社会性を担保するため、日本産科婦人科学会、日本周産期・新生児医学会ならびに遺伝関連学会によるガイドライン、倫理的指針を遵守する。
(10)臨床研究・治験
臨床研究は「川崎市立川崎病院 人を対象とする生命科学・医学系研究取り扱い要綱」に準じて行う。治験は「川崎市立川崎病院 治験取扱い要綱」に準じて行う。
(11)脳死判定
関係法令、通知、「臓器提供施設マニュアル」「法的脳死判定マニュアル」「臓器提供施設の手順書」、また「川崎市立川崎病院脳死判定要綱」に沿って適切に実施する。
その他、対応が必要な患者さんにおいては、その都度生命倫理に関する関係法規や各種ガイドライン及び院内規程等に基づいて検討する。
方針決定に苦慮する場合は臨床倫理コンサルテーションチームに依頼し関係する多職種を集めたカンファレンスを開催し検討する。
さらに社会的・法的に重大な影響を与える可能性のある以下のような事案の依頼を受けた場合には、倫理委員会委員長に報告して倫理委員会開催を検討し患者さんにとって最良の方針を決定する。
(1)ただちに死につながるような生命維持治療の中止
(2)未成年患者による治療拒否
(3)各種ガイドラインで委員会等での審議が求められる事項
文献
・人生の最終段階における医療・ケアの決定プロセスに関するガイドライン(2018 年:厚生労働省)・身寄りがない人の入院及び医療に係る意思決定が困難な人への支援に関するガイドライン(2018:厚生労働省)
・認知症の人の日常生活・社会生活における意思決定支援ガイドライン(2018 年:厚生労働省)
・Do Not Attempt Resuscitation(DNAR)指示のあり方についての勧告(日集中医誌 2017;24:208-9.)
・救急・集中治療における終末期医療に関するガイドライン(2014 年:日本集中治療医学会・日本救急医学会・日本循環器学会)
・透析の開始と継続に関する意思決定プロセスについての提言(2020 年:日本透析医学会)
・高齢者ケアの意思決定プロセスに関するガイドライン〜人工的水分・栄養補給の導入を中心として(2012 年:日本老年医学会)
・菅富美枝『イギリス成年後見制度にみる自立支援の法理』(ミネルヴァ書房,2010)
・Appelbaum PS. Assessment of Patientsʼ Competence to Consent to Treatment.N Engl J Med 2007; 357:834-40.
・Lim T et al. The Assessment of Decisional Capacity. Neurol Clin 2011; 29: 115-26.
・National Health Service. Mental Capacity Assessment Tool Guidance. 2015.
・板井孝壱郎.いかにして患者の意思を「推定する」のか? 医学哲学 医学倫理 2010; 28: 109-13.
・西川満則,大城京子.『ACP入門.人生会議の始め方ガイド』(日経メディカル,2020)
・森田達也,白土明美.『死亡直前と看取りのエビデンス』(医学書院,2015)
・西川満則,他.『本人の意思を尊重する意思決定支援』(南山堂,2016)
・MCA 2005. https://www.legislation.gov.uk/ukpga/2005/9/contents
第1版 平成22年12月1日
第2版 令和7年10月14日
川崎市立川崎病院 倫理委員会