- 変形性膝関節症とはどのような病気?
- どのような症状がみられますか?
- 変形性膝関節症の治療方法は?
- 外科的治療(手術)にはどんな方法がありますか?
- 人工膝関節置換術は実際どうやって行いますか?
- 入院期間は何日でしょうか?
- 手術前の注意点はありますか?
- 手術後の経過はどうなりますか?リハビリテーションについて
- 手術後、自宅での生活はどうなりますか?
- 旅行やスポーツは楽しめますか?
- 手術の合併症にはどんなものがありますか?
- 人工関節の素材や耐久性について教えてください
- 手術前の痛みはどの程度改善しますか?
- 川崎市立川崎病院で手術を受ける場合の手順を教えて下さい
- 麻酔は全身麻酔ですか?
- 費用はどのくらいかかりますか?
ここでは、日常よく診療する「変形性膝関節症」について、およびその外科的治療法の一つである人工膝関節置換術について、良くある質問に答える形で説明します。
変形性膝関節症とはどのような病気?
膝関節のクッションである軟骨がすり減り、関節炎や変形を生じて、痛みが起こる病気です。
日常生活の中で膝には常に負担がかかっています。骨と骨の間には軟骨と呼ばれるクッションがあり、膝関節への衝撃を和らげ吸収する役割を果たしています。加齢や病気などで軟骨が徐々にすり減ってくると、骨と骨とが直接ぶつかるようになり、膝の痛みの原因となります。
どのような症状がみられますか?
膝が痛む、曲げ伸ばしが十分にできない、膝が腫れる、膝が変形するなどの症状が見られます
変形性膝関節症の患者さまは特に①立ち上がりに痛む、②階段の昇り降りで痛む、③正座が痛くてできないという症状を訴えることが多いです。また、膝に水が溜まる、膝がO脚(X脚になる場合もあります)になるといった症状も見られます。
変形性膝関節症の治療方法は?
まずは生活指導、運動療法、物理療法、装具療法、薬物療法などの保存的治療を行います。保存的治療で効果がえられない場合は、外科的治療(手術)を検討します。
- 生活指導
体重減少や普段履いている靴の見直しで膝への負担を軽減します - 運動療法
膝に負担をかけずに、柔軟性や筋力アップに効果のある運動がお勧めです。スポーツジムでの自転車こぎや水中歩行などがあります。自宅でできる運動もありますので、外来でご相談ください。 - 物理療法
ホットパック、電気刺激、超音波治療などがあります。当院では外来患者さんへの物理療法を行っていないため、近隣のかかりつけ医への紹介を行っています。 - 装具療法
整形外科外来では装具の作成も行っています。足底板、膝のサポーター(関節症の程度に応じて数種類あります)などを処方しております。また、一本杖を使用することも膝関節の負担軽減に役立ちます。 - 薬物療法
消炎鎮痛剤の投与、ヒアルロン酸の関節内注射などがあります。近隣のかかりつけ医への紹介も行っておりますのでご相談ください。
外科的治療(手術)にはどんな方法がありますか?
初期の変形性膝関節症や年齢の若い患者さまに対しては、関節鏡視下手術(関節内部を関節鏡で見ながら、変形した半月板や軟骨、骨のでっぱりなどを除去する手術)や高位脛骨骨切り術(脛骨をくさび状に切ることでO脚を矯正する手術)を行います。変形が進んでいる場合や高齢の患者さまに対しては、人工の膝に置き換える「人工膝関節置換術」が良い適応となります。人工膝関節置換術は、骨を覆う金属(チタン合金、コバルトクロム合金、ジルコニアなどの材料です)とクッション(ポリエチレン)でできています。まず、大腿骨と脛骨の痛んだ骨の表面を削り、同じ大きさの金属で置換します。さらに金属の間にクッションの役割を果たすポリエチレンを挿入します。膝蓋骨(お皿の骨)も必要に応じてポリエチレンで置換します。年齢、症状により手術の適応が変わりますので、分からないことがありましたら外来担当医にご相談ください。
左:正常 中央:変形性膝関節症 右:人工膝関節置換術
人工膝関節置換術は実際どうやって行いますか?
膝の前面を通常13センチ程度切開します。「骨棘」と呼ばれる変形した骨を切除し、大腿骨、脛骨(および膝蓋骨)の痛んだ部分を削ります。金属の形にあうように骨を形成してゆき、骨セメントと呼ばれる接着剤を用いて人工関節を骨に固着して手術を終わります。最近では技術革新により患者さまの変形の程度や体格などにより異なりますが、10センチ前後の小さい傷で手術を行うことも可能となりました。
また、当院では人工関節手術の合併症を減らすため高機能クリーンルーム(クラス100)やサージカルヘルメットを準備し、患者さまがより安全・安心な手術を受けることができるよう取り組んでおります。
入院期間は何日でしょうか?
入院期間は短い場合は2週間、長い場合でも1ヵ月程度で退院となります。ご家庭の都合などで希望があれば、2週間よりも短い期間で退院することも可能ですので担当医にご相談ください。
手術前の注意点はありますか?
人工膝関節置換術を受けるまでに行っておくことについて説明します
- 内服中のお薬がありましたら、必ず担当医にその旨をお伝えください。血液をサラサラにする薬を内服中の場合、手術前に注視する必要があります。
- 喫煙者は禁煙してください。喫煙には肺機能の低下、感染リスクの増大などのデメリットがあります。最低でも、術前1ヶ月と術後1ヶ月の2ヶ月間は禁煙していただく必要があります。
- むし歯の治療を済ませてください。歯科医師に人工膝関節置換術を受ける旨を伝え、むし歯等の治療を済ませてください。むし歯のまま手術を受けると、術後感染症を起こすリスクが高まります。
手術後の経過はどうなりますか?リハビリテーションについて
手術後は理学療法士に指導してもらいながら、リハビリテーションを行ってゆきます。大腿四頭筋や腓腹筋の筋力トレーニング、膝の曲げ伸ばしを良くする訓練、起立・歩行・階段訓練などを行います。階段を手すりを用いて2,3段上り下りができたら退院となります。退院後もリハビリテーションの治療を行っている病院が近所にある場合は、継続してリハビリテーションを行うことが望ましいです。手術の内容や入院経過を記した情報提供書の作成も行いますので担当医にご相談ください。
手術後、自宅での生活はどうなりますか?
目標どおりにリハビリが進めば、術後2週間〜1か月程度で日常生活が可能となります。退院時には1本杖歩行のことが多いですが、必ず要するものではありません。退院後の生活はなるべく洋式の生活をおくることをお勧めします。具体的には、椅子に座り、ベッドで寝起きし、洋式のトイレを用いましょう。床に直接座ったり、床に布団を敷いて寝る生活は起き上がり動作のときに膝に負担がかかるため避けることが望ましいです。また、掃除をするときに、膝を床について拭き掃除をすることは避け、掃除機などで起立したまま掃除をすることをお勧めします。
旅行やスポーツは楽しめますか?
退院後6ヶ月から1年が経つと人工膝関節と体が馴染んでくるため、旅行やスポーツも楽しむことができるようになりますが、いくつか注意点があります。旅行に際しては長時間座りっぱなしの姿勢は良くないため、定期的に膝を屈伸したり歩いたりするよう心がけましょう。また、人工膝関節は空港の金属探知機に反応する場合があります。人工関節の手術を受けたという証明書を発行しますので担当医にお伝えください。スポーツに関しては、ゴルフ、ゲートボール、水泳などの膝に負担のかかりにくい競技は楽しむことができます。ただし、サッカー、スキー、山登りなど膝に大きな負荷がかかるスポーツは人工膝関節の寿命を縮めることになりますのでお勧めできません。
手術の合併症にはどんなものがありますか?
以下のような合併症があげられます。
- 術後の疼痛
術後一時的な痛み、腫れ、しびれなどが出ますが、いずれも数日で治まってきます。手術当日など、痛みがつらい場合にはそのつど対応致します。 - 深部静脈血栓症
この手術に限った合併症ではありませんが、お腹や下肢の手術をすると、下半身を動かさずに寝ていることがきっかけになって下肢の静脈の中の血液が固まり、血栓という血の固まりが出来ることがあります(深部静脈血栓症といいます)。普通この血栓は自然に無くなりますが、まれにリハビリなどの動作中に血液の流れにのって肺に運ばれ、そこでつまって突然死する事があります(肺血栓塞栓症といいます)。肺血栓塞栓症を起こすことはまれですが、何より予防が大切なので、手術の翌日から足を動かしたり、膝の曲げ伸ばしをしたりして、じっと動かないでいる時間をなるべく短くするよう指導致します(合併症予防のための早期リハビリテーション)。万一肺血栓塞栓症が生じた場合には、酸素を吸入したり、血液を固まりにくくする薬を投与したりして対応します。 - 細菌感染
手術した傷に細菌が感染すると、傷が化膿し関節に膿がたまることがあります。感染を生じるリスクはきわめて低く1%以下です。ただし一度感染が生じると場合によっては再手術が必要になるなど治療が大変なので、予防のために抗生物質を使います。 - 術後出血
当院では術後出血を減らすために、ドレーンクランプ法、薬物療法などを用いております。通常輸血を必要とするほどの出血は起こりませんが、出血量が多くなった場合には輸血を用いて対処いたします。 - その他
薬物アレルギー、ショックなど予測できない合併症が起こることもあり得ますが、そのつど対応致します。
人工関節の素材や耐久性について教えてください
さまざまな機種により違いがありますが、主に当院で使用しているのは、大腿骨の金属はコバルトクロム、脛骨の金属はチタンです。間のプラスティックは、高濃度のポリエチレンとなります。人工膝関節置換術を受けられた患者さんでも、他部位であればMRI検査を受けることは可能です。耐久性については患者さまの骨粗鬆症(骨のもろさ)の程度、術後の活動性の程度によって異なりますが、技術も道具も進歩しており、現在の人工関節は15年から20年は問題なくもつと考えられます。
手術前の痛みはどの程度改善しますか?
痛みの改善に関しては、個人差が存在しますが、25名を対象にした私見では一般に下図のような経過をたどることが多いです。術後1週間で手術前の痛みより軽減し、術後3週間で約3分の1程度になります。また、退院後も馴染んできますので更に軽快します。
川崎市立川崎病院で手術を受ける場合の手順を教えて下さい
外来で担当医と相談し手術を受けることが決まったら、入院の申し込み手続きと術前検査(採血、検尿、胸部レントゲン撮影、心電図など)を行います。通常、入院は手術予定日の直前(前日か、まれに前々日)になります。内科的疾患(糖尿病、脳梗塞など)の持病を治療中の場合は、入院が早まる可能性があります。入院後に、麻酔科の先生の説明や、病棟のオリエンテーションなどを行います。
麻酔は全身麻酔ですか?
通常は全身麻酔と下半身麻酔を併用して行います。術後の痛みのコントロールのために硬膜外麻酔といって痛み止めの細い管を腰に留置しておくこともあります。当院では麻酔の方法から管理まで全て麻酔科に一任しております。入院後に麻酔科の先生の説明がありますのでご相談ください。
費用はどのくらいかかりますか?
診療点数は保険で決められていますが、2年ごとに見直されて変更されることがあります。また、患者さんによって保険の種類が違うため(自己負担比率の差)ばらつきがあります。入院・手術にかかる費用については、患者さんごとに概算を行うことが出来ますので、必要な方は遠慮無く担当医もしくは事務会計にお尋ねください。