なぜ、修復不能なのか?
数ヶ月から数年前に切れた古い腱板断裂は修復不能な場合があります。ひとつには、古い腱は薄くなり、弱くなるため手術時に引っ張るとちぎれてしまうからです。また、筋肉が小さく退化してしまい脂肪に置き換わってしまうからです。筋肉が退化して消えてしまうと、十分なパワーが発生せず、その先の腱板、骨へ必要な力が伝わらないために肩関節が動きません。このような患者さんには担当医が、手術出来ない、手術で治せないと説明することがあります。
修復可能な腱板断裂。腱の断端は少ししか短縮していない。
筋肉はわずかに白い脂肪に置き換わっているのみである。
修復不能腱板断裂。腱板断裂は大きく内側に短縮している。
筋肉は小さくなり、大部分が白い脂肪組織に置き換わっている。
治療方法
1.リハビリテーション
筋力低下が軽度の場合には残った筋肉を鍛えることにより、疼痛や動きが良くなることがあります。筋力が改善すれば頭に手が届くようになり、疼痛が軽減する可能性があります。
2.関節鏡、滑膜切除、上腕二頭筋長頭腱固定術
痛みの原因である滑膜の切除、上腕二頭筋長頭腱の固定術を侵襲の少ない関節鏡を用いて行います。上腕二頭筋長頭腱は疼痛の原因となっていることが少なくなく、切離しても多くの場合問題が生じません。
3.腱板部分修復術、肩甲上神経剥離
腱板が大きく引き込まれた患者さんでは肩甲上神経が障害されている事があります。腱板断裂の一部分を可能な限り修復し、肩甲上神経を剥離する事により痛みや動きが改善する事があります。
4.腱移行術
棘上筋や棘下筋が退化し縮んでしまったために、筋力の回復が望めない場合に、自分の健康な筋肉(広背筋、大胸筋など)を他の部位から移植する方法です。広背筋腱移行では、肩の背中側を切開します。移行した広背筋は腱板の代わりに肩関節を動かす役割をします。軟骨まで痛んでいる患者さんには、リバース型人工肩関節が有効な治療法となります。
広背筋移行術
- 広背筋移行術の後6週間、装具を着用する必要があります。
- バイオフィードバックなどを含むリハビリテーションが長期に必要です。
- 腱移行の効果が現れるまで1年間リハビリテーションが必要な事もあります。
大胸筋移行術
肩関節の前方を覆う肩甲下筋腱が修復できない場合には大胸筋を移行する事があります。
5.リバース型人工肩関節置換術
リバース型人工肩関節は腱板が無くなった患者さんのために設計された人工肩関節です。人工関節の部品であるボールとソケットが従来の人工関節とは逆さまにデザインされています。
手術で治せない腱板断裂の患者さんにはリバース型人工肩関節置換術が有効です。腕が全く挙上できない状態の患者さんにこのタイプの人工関節を設置する事により痛みや動きが改善する事があります。
まれに、広背筋腱移行術を併用したリバース型人工関節置換術が行われる事もあります。
リバース型人工関節のレントゲン。修復できない腱板断裂の患者さんのために設計されたものです。。