概要

ここでは、当院で施行しております人工股(こ)関節置換術について、手術の概要を質問形式で説明します。

変形性股関節症とはどのような病気?

加齢、病気などにより股関節のクッションである軟骨がすり減り、股関節が痛む病気です。徐々に進行し、最終的に股関節の変形や骨の壊死に至りることがあります。さらに進行すると足の長さの左右差を生じ、関節の動きが制限され、著しい歩行障害を生じることもあります。

正常の股関節では、関節の表面は軟骨で覆われています。軟骨は股関節のクッションの役割を果たしていますが、この軟骨が徐々にすり減ってくると骨同士が直接ぶつかるようになり、関節痛の原因となります。軟骨の損傷は元に戻らないので、歩行時の痛みは徐々に増していくことになります。

変形性股関節症の治療方法は?

まずは生活指導、運動療法、物理療法、装具療法、薬物療法などの保存的治療で痛みの軽減を行います。保存的治療で効果がえられない場合は、外科的治療(手術)を検討します。

人工股関節置換術とはどのような手術でしょう

変形、磨耗した股関節を除去し、人工股関節で置き換える手術です。部品は、骨盤側と大腿骨側の2つに分かれ、コバルト・クロム合金やチタン合金などの金属製です。骨盤側はお椀の形を、大腿骨側はボールと支柱の形をしており、その間に人工のクッションが挟まります。金属は骨に打ち込んだりネジで固定したり、専用のセメントを用いて接着したりします。その結果、滑らかな股関節運動が可能となります。

川崎市立川崎病院で手術を受ける場合の手順を教えて下さい

外来で担当医と相談し手術が決まったら、入院の申し込み手続きと術前検査(採血、検尿、胸部レントゲン撮影、心電図など)を行います。可能であれば自分の血液を貯めて手術時に輸血する“自己血輸血”を準備し、(他人の血液の)輸血を避ける・少なくすることが出来ます。通常、入院は手術予定日の直前(前日か、まれに前々日)になります。内科的疾患(糖尿病、脳梗塞など)の持病を治療中の場合は、入院が早まる可能性があります。入院後に、麻酔科の先生の説明や、病棟のオリエンテーションなどを行います。

麻酔は全身麻酔ですか?

通常は全身麻酔と下半身麻酔を併用して行います。術後の痛みのコントロールのために硬膜外麻酔といって痛み止めの細い管を腰に留置しておくこともあります。当院では麻酔の方法から管理まで全て麻酔科に一任しております。入院後に麻酔科の先生の説明がありますのでご相談ください。

入院期間は何日でしょうか?

入院期間は早い方で2週間、長い方でも約1ヵ月程度で退院されます。リハビリが順調ならより短い期間で退院することが可能です。

人工関節の素材は何でしょうか?

さまざまな機種により違いがありますが、コバルト-クロムやチタンの合金です。金属間のクッションは、高濃度のポリエチレンや金属・セラミックなどです。人工膝関節置換術を受けられた患者さんでも、他部位であればMRI検査を受けることは可能です。また、金属ですので、空港などの金属探知機に反応する場合があります。

手術の合併症にはどんなものがありますか?(起こりうる合併症)

以下のような合併症があげられます。

  • 手術中骨折
    骨粗鬆症が強いと人工股関節を設置するときに骨盤や大腿骨に骨折を生じることが稀にあり、ワイヤーや金属性プレートを使用して治療を行うことがあります。
  • 細菌感染
    手術した傷に細菌が感染すると、傷が化膿し関節に膿がたまることがあります。感染を生じるリスクはきわめて低く1%以下です。ただし一度感染が生じると場合によっては再手術が必要になるなど治療が大変なので、予防のために抗生物質を使います。  
  • 下肢深部静脈血栓症・肺塞栓症
    下肢の静脈に血の塊(血栓)ができ、肺で詰まる病気です。詰まった血栓が大きい場合致命的になる可能性があります。抗凝固薬による治療が必要です。
  • 腫脹・皮下出血・大腿部のだるさ
    手術後の腫れ(腫脹)や内出血(皮下出血)で、次第に消失していきます。骨のなかに堅い金属がはいるので大腿部のだるさ、違和感、鈍痛、疼痛などが発生する場合があります。
  • 脱臼(2〜3%)
    術後、股関節を無理に捻ったり、転倒した際に、人工股関節が脱臼することがあります。脱臼した場合、麻酔をかけて整復(元に戻すこと)が必要です。手術初期は注意が必要で、術後3カ月から6カ月を過ぎると脱臼しにくくなります。  
  • 人工関節のゆるみ・磨耗
    経年とともに人工股関節周囲に、「ゆるみ」が発生することがあり、人工股関節を取り替える手術(再置換術)が必要になります。高密度ポリエチレンという人工軟骨が1年間に平均0.1mm磨耗します。磨耗が激しい場合は手術によってポリエチレンの交換をします。

いつから普通の日常生活に戻れますか?

目標どおりにリハビリが進めば、術後2週間から1ヶ月ほどで退院が可能です。退院時には安全のために1本杖歩行のことが多いですが、必ず要するものではありません。退院後はごく普通の日常生活を送って頂くのもリハビリの一つです。

リハビリはどのようにするのですか?

手術翌日もしくは2日目より歩行訓練を開始します。入院中は、リハビリのスタッフと大腿部の筋力訓練や、歩行訓練などを行います。退院後も必要な方には、リハビリのスタッフがいる施設で継続してリハビリをお勧めする場合があります。

費用はどのくらいかかりますか?

診療点数は保険で決められていますが、2年ごとに見直されて変更されることがあります。また、患者さんによって保険の種類が違うため(自己負担比率の差)ばらつきがあります。入院・手術にかかる費用については、患者さんごとに概算を行うことが出来ますので、必要な方は遠慮無く担当医もしくは事務会計にお尋ねください。