前立腺肥大症とは
前立腺は男性にのみ存在する臓器で、前立腺肥大症は年齢が高くなるにつれて増えてくることがわかっています。前立腺は通常はクルミほどの大きさ(15~20ml程度)で、膀胱の出口にあり内部を尿道が通っています。この前立腺が年齢とともに肥大することにより、尿道が圧迫されて排尿障害を、膀胱側に突出することで頻尿などの畜尿症状を引き起こします。
治療方法
薬物治療と、手術治療の2種類があります。
薬物治療
治療の主流はα1遮断薬という薬で症状を緩和することですが、薬で前立腺の腫れを完全に元に戻すことはできません。
薬で排尿症状の改善が充分でない場合や、大きな前立腺の場合は手術治療の方が改善を期待できます。特に、80mlを越えるような大きな前立腺肥大症(巨大前立腺と呼ばれます)では、飲酒や風邪薬の内服がきっかけで、『尿閉』と呼ばれる尿が出せずに膀胱が張って苦しくなる状況を引き起こしやすいです。夜間に起こることも多いため、救急外来での処置が必要となります。
手術治療
現在、多くの病院で行われているのはTUR-P(経尿道的前立腺切除術)という内視鏡手術で、電気メスで腫れている前立腺を少しずつ切除していく方法です。前立腺が大きいと出血量が多くなり、高齢者や心臓の悪い方には施行できない場合があります。
『HoLEP』という手術方法は、内視鏡を尿道から入れて前立腺の内側(内腺)と外側(外腺)の境目を剥がしていきます。その剥がす際にホルミウム・ヤグレーザーという種類のレーザーを使用して核出(くり抜くこと)します。膀胱内へ核出した腺腫はモルセレーターという道具で細切・吸引しながら摘出します。これまで前立腺肥大症に対し施行されてきた TUR-Pは腺腫を電気メスで削り取ってくるため、削る(切開)と止血(凝固)を交互に行わなくてはならず、大きな前立腺肥大ではある程度の出血は防ぐ事ができず、手術時間も長くなります。
前立腺肥大をミカンに例えると、実にあたるのが腫大した前立腺です。TUR-Pでは、ミカンの実に切り込むため、果汁すなわち出血が多くなります。しかしHoLEPでは、ミカンの実を塊として皮から剥ぎ取るため果汁が出ない、つまり出血が少なくなります。このことによりHoLEPは、TURP に比べて出血量を少なくすることが可能となり、低侵襲な治療法として非常に注目されています。
当院における低出力HoLEP
一般的にHoLEPで使用するホルミウム・ヤグレーザーは80ワット以上の高出力レーザーが主流ですが、当院では30ワットの低出力レーザーで施行しております。低出力レーザーの場合、『切る力』は落ちますが、『剥がす力』は遜色ありません。むしろ、正しく剥がす層から誤って外側に入り込んでしまうリスクが少ないと考えて低出力レーザーを使用して施行しております。出力が落ちる事で難易度が高くなり、時間がかかると一般的に言われております。
HoLEPでの手術成績を評価する指標として核出効率(くりぬいた前立腺の重量[g]÷くりぬくのにかかった時間[分])という指標があります。核出効率が高ければ高い程、短時間で多くの前立腺をくり抜いたということになります。Jaeger らによる100ワットの高出力レーザーを用いたHoLEPの報告では核出効率は1.48ですが、当院では低出力レーザーを用いても1.60と非常に高い数値を誇り、80ml以上の巨大前立腺に限ると1.71とさらに高い数値となります。
周術期に輸血を必要とした症例もなく、大きな前立腺でも患者様に負担をかけず満足いただける手術を行います。前立腺が大きく、別の病院では手術が困難であると言われたような方も、是非当院にご相談ください。
前立腺肥大症に対する多様な手術治療選択肢を御提案
当院ではHoLEP以外にも前立腺肥大症の手術療法を治療選択肢として御提示可能です。上述したTUR-P(経尿道的前立腺切除術)ももちろん施行可能です。前立腺がそれ程大きくない患者様(30-40ml程度)の場合は、TURPの方がより短時間で施行可能で有効な場合もございます。それ以外にもHoLEPと同じ核出術であるTUEB(経尿道的バイポーラー前立腺核出術)が御選択いただけます。HoLEPとTUEBの違いは、核出を行うのに使用する道具がレーザーであるか、電気メスであるかの違いであり、TURPに比較して出血が少ないという点でのメリットはHoLEPと同様です。
患者様の御要望や、前立腺の大きさによって治療法を御提案し、より満足いただける治療を提供してまいります。